スパッタリングされたカリウムナトリウムニオブ酸塩を使用した高音圧圧電マイクロマシニング超音波トランスデューサ
高音圧圧電マイクロマシニング超音波トランスデューサの研究進展
学術的背景
超音波トランスデューサは、物体検出、非破壊検査、生体医学的イメージング、治療などの分野で広く使用されています。従来のバルク超音波トランスデューサと比較して、圧電マイクロマシニング超音波トランスデューサ(PMUT)は、小型化、低消費電力、広帯域幅などの利点があり、消費電子機器やIoT(モノのインターネット)における測距、ジェスチャー認識、指紋センシング、3Dイメージングなどのアプリケーションに適しています。しかし、これらの小型センサーは出力圧力が比較的低く、さまざまなアプリケーションでの信号伝送が制限されています。例えば、最先端の窒化アルミニウム(AlN)ベースのPMUTアレイは、4メートルの伝送距離しか達成していません。PMUTを空中触覚フィードバック、スピーカー、音響ピンセットなどのアプリケーションに拡張するためには、高い出力音圧レベル(SPL)を実現することが主な課題です。
PMUTの伝送特性は、主に機械構造設計と活性圧電材料によって定義され、性能向上のためには新しい材料の探索が求められています。AlNは最も一般的に使用される圧電材料ですが、その圧電係数は比較的低い(e31;f ≈ -1 C/m²)です。材料組成の調整、例えば36%のスカンジウム(Sc)を添加したAlN(ScAlN)薄膜では、圧電係数を-2.3 C/m²まで向上させることができます。しかし、鉛を含むチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は高い出力圧力を生成できますが、高い誘電率により受信感度が低く、鉛の存在も一部のアプリケーションでの使用を制限しています。そのため、無鉛圧電材料を探索し、PMUTの性能をさらに向上させることが研究の焦点となっています。
論文の出典
本論文は、Fan Xia、Yande Peng、Wei Yue、Mingze Luo、Megan Teng、Chun-Ming Chen、Sedat Pala、Xiaoyang Yu、Yuanzheng Ma、Megha Acharya、Ryuichi Arakawa、Lane W. Martin、Liwei Linによって共同執筆され、2024年に「Microsystems & Nanoengineering」誌に掲載されました。論文では、スパッタリング法で作製されたカリウムナトリウムニオブ酸塩(KNN)薄膜を用いた高音圧PMUTの設計、製造、および触覚フィードバック、スピーカー、測距計への応用について詳細に説明されています。
研究のプロセス
設計と製造
PMUTの変換プロセスは、電気、機械、音響の3つのエネルギー領域を含みます。PMUTは、電気-機械-音響の結合を利用して電気励起信号を音波に変換します。論文で設計されたPMUTは、2マイクロメートルの厚さのKNN薄膜を活性圧電層とし、5マイクロメートルの厚さのシリコン層を弾性層とする円形単層膜構造を採用しています。二重電極構造は、差動駆動によって振動変位と出力圧力を増強します。シミュレーション結果は、固定境界条件下でPMUTの基本曲げモードが半径の67%で応力反転点を示し、差動駆動構成が圧電膜全体を最大限に活用して出力を増加させることが示されました。
製造プロセスは、6インチのシリコン基板上に25ナノメートルの厚さの酸化亜鉛(ZnO)接着層と200ナノメートルの厚さの白金(Pt)底電極層を堆積することから始まります。その後、500°Cで2マイクロメートルの厚さのKNN薄膜をRFマグネトロンスパッタリング法で堆積します。次に、10ナノメートルの厚さの酸化ルテニウム(RuO2)層と100ナノメートルの厚さのPt層を堆積し、内側の円形電極と外側のリング電極としてパターニングします。KNN薄膜をウェットエッチングプロセスでパターニングし、底電極にアクセスするためのビアを形成します。最後に、シリコン深層反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスで背面シリコンキャビティを定義します。
特性評価とテスト
X線回折(XRD)と走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、KNN薄膜の結晶構造とPMUTの機械的特性を評価しました。XRD結果は、KNN薄膜が良好な結晶性を示すことを示し、SEM画像はPMUTの多層膜構造と各層の厚さを示しています。電気的特性テストでは、膜半径が増加するにつれて、PMUTの共振周波数が241 kHzから21.2 kHzに減少することが示されました。機械振動特性テストでは、差動駆動方式下で、200 mVp-pの励起時にPMUTの中心変位が1.23マイクロメートルに達し、変位感度は12.3 μm/Vであることが示されました。
音響特性テストでは、PMUTは1 cmの軸距離で133 dBの音圧レベル(SPL)を達成し、10 cmでは111.6 dBであり、伝送感度はAlNベースのPMUTよりも5-10倍高いことが示されました。非線形挙動の研究では、PMUTの振動周波数が変位の増加に伴ってドリフトし、Duffing非線形モデルに従うことが示されました。
主な結果
触覚フィードバック応用
15×15のKNN PMUTアレイは、12 Vp-pの駆動電圧で、15 mmの距離で2900 Paの焦点圧力を生成し、対応する音圧レベルは160.3 dB SPLです。これは、空中PMUTアレイとして触覚アクチュエータで達成された最高の出力圧力です。パルス幅変調(PWM)方式により、PMUTアレイは人間の手のひらに非接触触覚刺激を生成し、ボランティアテストの90%で即時の触覚フィードバックを実現しました。
スピーカー応用
単一のPMUT素子は、22.8 kHzの共振周波数で、3 cmの軸距離で105 dBの音圧レベルを生成できます。振幅変調(AM)方式により、PMUTは20 Hzから20 kHzの可聴範囲で均一な音響出力を生成し、音圧レベルは約85 dBです。この構造はスピーカー応用向けに最適化されていませんが、可聴音の生成に成功したことは、KNN PMUTの強力な出力能力を示しています。
測距計応用
パルスエコー測定により、単一のPMUT素子は2.82メートルの距離で物体を検出でき、優れた送受信能力を示しました。パルスエコー測定結果は、PMUTが1.5メートルの距離で0.32 mVのエコー振幅と8.6 msの飛行時間(TOF)を達成できることを示しています。アレイ設計と音響パッケージを最適化することで、PMUTの検出範囲をさらに拡張できる可能性があります。
結論
本研究では、スパッタリング法で作製されたKNN薄膜を用いた高音圧PMUTを実証し、KNN薄膜が001方向で良好な結晶品質と高い圧電係数を示すことを確認しました。単一のKNN PMUTは、4 Vp-pの駆動電圧で106.3 kHzの共振周波数を達成し、振動振幅は3.74 μm/V、音圧レベルは1 cmと10 cmの軸距離でそれぞれ132.3 dBと111.6 dBであり、伝送感度はAlNベースのPMUTよりも5-10倍高いことが示されました。構造設計、パッケージ最適化、カスタマイズされた電子機器を通じて、PMUTの性能をさらに向上させることが期待されます。
触覚フィードバック、スピーカー、測距計などのアプリケーションにおいて、KNN PMUTは高音圧と低駆動電圧の利点を示しました。将来的に、このPMUTは音響冷却、携帯型超音波イメージング、心血管モニタリング、非破壊検査、流量計、水中イメージング、音響ピンセットなどの分野で幅広く応用される可能性があります。
研究のハイライト
- 高音圧出力:KNN PMUTは低駆動電圧で高音圧出力を実現し、AlNベースのPMUTよりも5-10倍高い性能を示しました。
- 多機能応用:触覚フィードバック、スピーカー、測距計などのアプリケーションでその強力な性能を実証しました。
- 無鉛材料:KNNは無鉛圧電材料として、高い圧電係数と低い誘電率を持ち、さまざまなアプリケーションに適しています。
- 革新的設計:差動駆動と二重電極構造により、圧電膜を最大限に活用し、出力性能を向上させました。
本研究は、高音圧PMUTの設計と応用に新たな視点を提供し、さまざまな分野での大きな可能性を示しています。