Park7の非従来型分泌にはシャペロン介在オートファジーと特殊化SNARE複合体を介したリソソーム輸送が必要

一、研究背景

パーキンソン病関連タンパク質PARK7/DJ-1(以下PARK7)は、神経変性疾患、がん、炎症など多様な病理状態で重要な役割を果たす多機能タンパク質である。従来型のN末端シグナルペプチドを欠いているにもかかわらず、ストレス条件下で細胞外に分泌され、様々な疾患患者の脳脊髄液や血液中でその分泌量が顕著に上昇することが確認されている。しかし、PARK7の非古典的分泌の具体的なメカニズムは長年不明であった。

先行研究では、6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)誘導性の酸化ストレスがオートファジー経路を介してPARK7分泌を促進することが示されたが、この過程における以下の核心的な問題は未解決だった: 1. 酸化ストレス条件下でPARK7が分子シャペロン介導性オートファジー(CMA)経路を介してリソソーム腔へ選択的に輸送される分子機構 2. PARK7分泌を仲介する特殊化SNARE(可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体)複合体の構成と機能

二、論文出典

本論文は同志社大学生命医科学研究科のBiplab Kumar Dash、浦野泰臣(責任著者)らによる研究で、『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)2025年122巻19号に掲載(DOI:10.1073/pnas.2414790122)。

三、研究プロセスと結果

1. 6-OHDA誘導性PARK7非古典分泌の検証

実験設計: - HeLa細胞株を用い、濃度勾配の6-OHDA処理 - 無血清培地培養後、条件付き培地を回収 - トリクロロ酢酸沈殿法による分泌タンパク質濃縮後、ウェスタンブロットでPARK7分泌量を測定

主要発見: - 6-OHDA濃度依存的にPARK7分泌が増加(図1B) - ブレフェルジンA(BFA)によるER-ゴルジ経路阻害も分泌に影響なし(図1D) - 超遠心分離によるエクソソーム分画でPARK7は可溶性画分のみに検出(補足図S1A) - GW4869によるエクソソーム分泌阻害もPARK7分泌に影響せず(補足図S1B)

結論:6-OHDA誘導性PARK7分泌は古典的分泌経路とエクソソーム放出に依存しない。

2. オートファジーフラックスの役割

革新的手法: - タンデム蛍光標識LC3(tfLC3)レポーターシステム:pH感受性のGFP(酸に不安定)とmRFP(酸安定)を利用し、オートファゴソーム(黄色斑点)とオートリソソーム(赤色斑点)を識別

主要実験: - 6-OHDA処理でLC3-II転換とSQSTM1/p62分解が増加(図2A) - バフィロマイシンA1(BafA1)とクロロキン(CQ)処理でLC3-II蓄積が増強(図2B) - tfLC3で6-OHDAがオートファゴソームとオートリソソーム数を同時増加(図2C)

機序検証: - ULK1阻害剤MRT68921とFIP200ノックアウト細胞で分泌抑制(図3A-C) - ラパマイシン誘導性オートファジーが分泌を促進(図3D) - 抗酸化剤N-アセチルシステイン(NAC)が6-OHDA誘導分泌を抑制(図3E-F)

3. リソソーム機能の重要性

技術的進展: - サブセルラー分画法とリソソームマーカーLAMP1の検出(図4C) - PARK7とLAMP2の免疫蛍光共局在解析

重要な発見: - リソソーム阻害剤(CQ+NH4Cl)で細胞内PARK7蓄積(図4A) - STX17(オートファゴソーム-リソソーム融合必須タンパク質)ノックアウトで分泌顕著に抑制(図4D-E) - しかしSNAREパートナーSNAP29/47ノックダウンは分泌に影響なし(図5)

4. 特殊化SNARE複合体の同定

手法の革新: - AlphaFold2 multimerによるタンパク質複合体構造予測(補足図S5F-G) - 免疫共沈降によるSNARE相互作用の検証(図7G)

主要結果: - Sec22b(R-SNARE)ノックダウンで分泌抑制(図7B) - STX3/4(細胞膜Qa-SNARE)ダブルノックダウンで分泌完全阻害(図7C) - Vti1b(Qb-SNARE)とSTX8(Qc-SNARE)ノックダウンで分泌著減(図7E-F) - 6-OHDAがSNARE複合体形成を促進(図7G)

5. CMAを介したPARK7輸送機構

画期的発見: - PARK7に4つの保存されたKFERQ様モチーフを同定(補足図S6D) - サイト特異的変異で91/92、94/95、44/45位が分泌に必須(図8B-C) - Hspa8とLAMP2ノックダウンで分泌抑制(図8D) - 架橋実験で分泌型PARK7が主にモノマーであることを確認(図8F)

四、研究結論と意義

本研究で初めて解明された点: 1. 分子機構:6-OHDAが酸化ストレスによりPARK7モノマー化を誘導し、KFERQ様モチーフを露出→Hspa8-LAMP2を介したCMA経路でリソソーム腔へ輸送 2. 分泌経路:特殊化SNARE複合体(STX3/4-Vti1b-STX8-Sec22b)が分泌性オートリソソームと細胞膜の融合を仲介 3. 概念的革新:「分泌性オートリソソーム介在分泌」という新パラダイムを提唱

学術的価値: - 神経変性疾患における異常タンパク質分泌の機序的解明 - CMAのタンパク質分泌における新機能の発見 - PARK7分泌を標的とした治療戦略開発への分子標的提供

五、研究のハイライト

  1. 方法論的革新:tfLC3ライブイメージング、AlphaFold2構造予測、架橋質量分析技術の統合
  2. 機序的突破:CMA経路とSNARE介在膜融合機構の初関連付け
  3. 臨床的意義:パーキンソン病等の神経変性疾患におけるバイオマーカー開発と治療法への新たな視点

六、その他の発見

  • TMED10ノックダウンで予想外にPARK7分泌増加(図8A)→未知の調節経路の存在示唆
  • リソソーム膜透過性(LMP)アッセイで6-OHDAがリソソーム完整性を破壊しないことを確認(図6)
  • プロテアソーム阻害が分泌に影響せず(補足図S4)、経路特異性を実証