Alcaligenes faecalisはE3ユビキチンリガーゼTRIM21を介したFBXW7の分解を促進することで腸管Th17細胞を誘導する

一、研究背景

腸管Th17細胞は粘膜免疫恒常性の維持と病原体感染への抵抗において中心的な役割を果たす。従来の研究では、分節糸状菌(SFB)が腸管Th17細胞を誘導する主要な微生物と考えられてきたが、成人腸管におけるSFBの定着には議論がある: 1. 臨床的矛盾:ヒト腸管におけるSFB検出率は加齢とともに急激に低下(3歳未満児24%、成人0%)し、広範な集団における腸管Th17細胞の豊富化現象を説明しにくい 2. 機序の限界:既知のSFBは樹状細胞依存性経路または上皮細胞CDC42を介したエンドサイトーシスによって間接的にTh17細胞を誘導するが、微生物がT細胞内分子機構を直接制御できるかは不明であった

本研究は浙江大学医学部蔡志堅チームが主導し、米国インディアナ大学等と共同で2025年6月に「Immunity」誌(DOI:10.1016/j.immuni.2025.03.008)に発表したもので、普遍的に存在するAlcaligenes faecalis(A. faecalis)がTRIM21-FBXW7-JUNB-AHR-RORγt軸を介して直接Th17細胞を誘導する新機序を明らかにした。

二、研究プロセスと発見

1. FBXW7欠損がTh17細胞分化を促進(基礎機序の探索)

実験設計: - 遺伝子改変マウスモデル:T細胞特異的FBXW7ノックアウトマウス(FBXW7fl/fl*dLck-Cre)を構築 - サンプル処理:脾臓、腸間膜リンパ節(MLN)、腸管固有層(LP)リンパ球を分離 - 重要実験: - フローサイトメトリーによるTh17細胞比率(IL-17A+CD4+)の解析 - qPCRによるTh17特徴遺伝子(Il17a, Rorc, Il23r)の検出 - 体外Th17分化培養(TGF-β1+IL-6+IL-23)

重要な発見: - FBXW7欠失により腸管LP中のTh17細胞が2.3倍増加(p<0.001) - 非病原性Th17特徴遺伝子Il10の発現上昇、病原性マーカーTbx21の低下 - ヒトでの検証:結腸組織CD4+T細胞においてFBXW7とIL-17A発現が負相関(r=-0.82)

2. 腸内細菌叢がTRIM21を介してFBXW7ユビキチン化分解を誘導

革新的手法: - 質量分析法:FBXW7と相互作用する8種類のE3リガーゼを同定 - 条件付き遺伝子サイレンシング:shRNAを用いた重要調節分子のスクリーニング

重要なデータ: - 細菌叢溶解物処理によりFBXW7の半減期が8.5時間から3.2時間に短縮 - TRIM21が特異的にFBXW7のK48連結ポリユビキチン化を媒介(質量分析で7つのユビキチン化部位を同定) - 抗生物質で細菌叢を除去後、野生型マウスLPでTh17細胞が67%減少したが、FBXW7-/-マウスでは19%のみの減少

3. A. faecalisの独自の作用機序

細菌叢スクリーニング: - メタゲノム解析:LB培地培養腸内細菌叢から4,494種の細菌を同定 - 機能スクリーニング:市販10菌株中、A. faecalisとA. haemolyticusのみがTh17細胞を誘導

二重経路制御: 1. タンパク質取り込み経路: - CDC42依存性エンドサイトーシス:共焦点顕微鏡でビオチン標識A. faecalisタンパク質がEEA1+エンドソームと共局在 - TRIM21自己ユビキチン化の抑制:UBE2W-TRIM21相互作用が50%減少(co-IPで確認)

  1. 外膜小胞(OMVs)経路
    • ナノ粒子追跡分析(NTA):直径80-200nmの小胞を分離
    • マクロピノサイトーシス阻害剤Baf-A1でOMVsの内部化を85%以上阻止

臨床的関連性: - ヒト便検査:A. faecalisは成人と小児でそれぞれ86%と63%の検出率 - 外膜小胞の静脈内投与で無菌マウス腸管Th17細胞が3.1倍増加

4. 分子軸機序の解明(JUNB-AHR-RORγt)

革新的実験: - クロマチン免疫沈降(ChIP):AHRが直接RORCプロモーター領域(-8567~-8549bp)に結合することを確認 - デュアルルシフェラーゼレポーターシステム:JUNB過剰発現でAHRプロモーター活性が4.8倍増強

重要な発見: - FBXW7はJUNB分解を介してAHR転写を抑制 - AHRが直接RORγt発現を活性化(結合部位を変異させるとルシフェラーゼ活性が72%低下) - 系統追跡実験:FBXW7欠損は分化済みTh17細胞の生存に影響せず(過剰移入後細胞数に差なし)

三、研究の意義とハイライト

科学的価値

  1. 理論的ブレークスルー

    • 非SFB微生物が直接T細胞分化を制御する新パラダイムを発見
    • TRIM21-FBXW7-JUNB-AHR-RORγtという全新規シグナル軸を解明
  2. 技術的革新

    • 「細菌タンパク質-宿主E3リガーゼ」相互作用スクリーニングプラットフォームを確立
    • CDC42阻害剤に基づく細菌叢介入戦略を開発

応用展望

  1. 疾患治療

    • A. faecalis OMVsはCitrobacter rodentium感染の予防剤として活用可能
    • TRIM21阻害剤は炎症性腸疾患の標的治療に応用可能
  2. 技術転用

    • 特許データ:「A. faecalisに基づく免疫調節剤」の特許出願(WO2025/086532)

四、研究の限界

  1. 機序の深さ:A. faecalisで効果を示す具体的タンパク質成分が未同定
  2. 臨床転用:異なる集団におけるA. faecalisの免疫調節一貫性のさらなる検証が必要

本研究は腸内細菌叢-免疫系相互作用の理解に新たな視座を提供し、関連発見は「Immunity」誌のGraphical Abstractとして巻頭に掲載された。